自筆証書遺言とは、遺言を書く本人がタイトル、日付、本文、署名のすべてを手書きで作成する遺言書のことです。
2019年から遺言書に載せる財産目録(相続財産の一覧表)についてはパソコンで作成できるようになりました(968条2項)。さらに2020年7月10日からは法務局における「自筆証書遺言の保管制度」が始まり、作成した自筆証書遺言を法務局で保管してもらえるようになりました。
以上のように、自筆証書遺言を巡ってはここ数年、様々な法改正があり、改めて注目されている制度です。
自筆証書遺言のメリット・デメリットとは
ここでは、自筆証書遺言のメリットとデメリットをご紹介いたします。
自筆証書遺言のメリット
- 遺言書の存在と遺言の内容を誰にも知られずに作成できる
- 自宅で気軽に作成できる
- 手数料がかからない
- 気が変わった時に簡単に内容を変更できる
自筆証書遺言は思いついた時に作成できる手軽さが最大のメリットです。
さらに、文案起案から遺言書を書き終えるまで、他者の関与なく作成できるため、家族や他人に内容を知られることなく作成することができる点も、大きなポイントとなります。
また、遺志に変更が生じた場合、すぐに再作成できる点もポイントと言えます。
自筆証書遺言のデメリット
- 形式上の不備で無効になる可能性がある
- 財産目録以外はすべて手書きしなければならない
- 遺言書を紛失する、あるいは遺言書を発見してもらえない可能性がある
- 遺言書を見つけた人によって内容を変造、偽造、破棄されるリスクがある
- 遺言者が亡くなったとき、家庭裁判所で「検認」を受ける必要がある
- 「検認」では遺言内容については確認されないため、文言にミスがあると無効になる
自筆証書遺言にはその手軽さゆえのリスクがあります。 まず、自筆とはいえ遺言書には法律で定められた形式があります。当然、その形式に従っていなければ遺言書は無効となり、法的拘束力は生じません。
また、冒頭でご紹介した通り、2019年からは遺言書に載せる財産目録(相続財産の一覧表)はパソコンで作成できるようになったものの、その他の部分は手書きしなければならないため、骨の折れる作業となります。
さらに、やっとの思いで作成した遺言書を紛失してしまうことや、ご自身が亡くなったときに誰にも発見されないという事態も考えられます。
そして最大のデメリットは、自筆証書遺言は家庭裁判所にて「検認」という手続きをしなければならないことです。こちらの手続きについては次章で詳しくご案内いたします。
自筆証書遺言の検認手続きについて
遺言書の検認は家庭裁判所に「遺言書が確かに存在する」ということを確認してもらうことです。
遺言書の発見者や保管者が家庭裁判所に遺言書を提出し、相続人などの立会いのもとで遺言書を開封し、遺言書の内容を確認します。
そうすることで相続人に対して、遺言書の存在を明確にして偽造されることを防ぐための手続きです。ただし形式上の不備は確認されるものの、遺言内容や文言までは確認されないため、後々の手続きで遺言が無効になってしまうこともあります。
自筆証書遺言がある場合は、この検認手続きを必ず行わなければなりません。
では、検認手続きはどのようにして行われるのでしょうか。
検認手続きの手順
1.相続人を確定させる
はじめに今回の相続で法定相続人となる人は誰なのかを明確にする必要があります。
法定相続人とは、法律で定められた順番によって相続する人のことです。
法定相続人は亡くなった人や相続人の戸籍を収集して明確にします。
法定相続人の立場によって収集する戸籍謄本が異なるので、まずは遺言者の法定相続人を明確にしましょう。
2.家庭裁判所の管轄を確認する
申立先の家庭裁判所を確認しましょう。
申立先となる家庭裁判所は「遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。
3.家庭裁判所に提出する書類を作成する
家庭裁判所に提出する書類で作成が必要なものは
- 遺言書の検認申立書
- 当事者目録
以上2つです。
作成時のポイントとして、使用する印鑑に注意が必要です。押印する印鑑は認印でも構いませんが、検認の実施日に同じ印鑑を用意する必要があるので、どの印鑑で押印したか忘れないようにしましょう。
5.家庭裁判所からの通知
提出書類に不備がなければ、1ヶ月〜1ヶ月半後に家庭裁判所から相続人全員に遺言書検認日についてのご案内が郵送されます。
6.遺言書検認日
申立人は、家庭裁判所に遺言書を持参し、遺言書の検認手続きをします。
申立人がいれば他の法定相続人は出席しなくても検認手続きを行えます。
また、検認の申立てに必要な費用は遺言書1通につき収入印紙800円です。さらに、家庭裁判所との連絡用に予納郵券(郵便切手)が別途必要となります。この金額は家庭裁判所によって異なりますので、詳細は管轄の家庭裁判所にご確認ください。
7.遺言書検認手続き終了
検認手続きが終了すると、検認証明書が発行され、遺言書として効力を持つものとなります。
家庭裁判所から戸籍謄本等を返却してもらい、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約などの相続手続きを行なっていくことになります。
自筆証書遺言を書く際の注意点
自筆証書遺言を作成するポイントは、以下の4つです。
- 遺言者本人が、自分自身で書く
- 日付を記載する
- 署名をする
- 捺印する
①遺言者本人が、自分自身で書く
自筆証書遺言は、財産目録以外はすべて本人が書く必要があります。代筆やパソコンで作成していると、無効となります。
②日付を記載する
日付は遺言書を作成した年月日を記入します。
③署名をする
自筆による署名がなければ、無効となります。 氏名の自署は、芸名やペンネームでもご本人だと分かれば無効にはなりませんが、確実に遺言者が誰であるかを特定するために、本名での署名が無難と言えます。
④捺印する
捺印は実印が望ましいとされていますが、認印、拇印でもかまいません。
自筆証書遺言を保管する際の注意点
遺言書をどう保管しておくかは意外と難しい問題です。
自筆証書遺言を書いた場合は、それをご自身でどこかに保管しなければなりません。
このとき、誰かに発見されて中身を見られたり、書き換えられたりすることを避けるため、
簡単には見つからない場所に隠してしまい、結局誰にも発見されない…という事態にもなりかねません。
このような事態を避けるため、お勧めの保管方法をご紹介いたします。
- 相続に利害関係がない知人に預ける
- 自筆証書遺言の保管制度を利用する
自筆証書遺言の保管制度について詳しくご案内いたします。自筆証書遺言の保管手続きは、自筆証書遺言を作成したご本人が法務局(本局・支局等)に遺言書の保管を申請できる制度です。
法務局では遺言の原本を保管するだけでなく、その内容を画像データでも保存してくれるため、相続人は全国で遺言書の有無や内容を確認することができます。
また、本制度を利用した場合、遺言書の検認が不要になるというメリットもあります。
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自筆証書遺言は法改正されたことで、簡単に作成することができるようになりました。 しかし、遺言の形式が法律要件を満たしているか、遺言書の保管場所をどうするか、遺言の内容が遺留分を侵害していないかなど、注意すべき点は多くあります。また、遺言の内容によってはせっかく遺言書を遺しても、相続トラブルが起きてしまう可能性もあります。
遺言書には自筆証書遺言の他にも公正証書遺言など他の選択肢もあり、内容についても慎重に書き記す必要があるため、できる限り司法書士や行政書士など相続の専門家に相談することをお勧めします。
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